公開レッスンを聴講するコツ【その2】気持ちと動きを真似してみる
今回も、公開レッスンを聴講する時のコツをもう一つご紹介します。
自分が持っていないものを見て、聴いて、体で感じて、それを自分の中に取り入れていくことで、自分の引き出しを増やしていく。これも公開レッスンでの学びです。
これは絵画でいう「模写」、書道でいう「臨書」です。お手本を真似することで心や技術を学びます。
では「絵画の模写」、「書道の臨書」を音楽のレッスンでの聴講にどう応用したらいいのでしょうか。
その方法をおおまかにいうと、
1. 演奏している人の気持ちに自分もなりきったり、演奏する体の動きを「まるで自分の体がいまその楽器を弾いているように」感じてみます。
2. すると、「いつもの自分ならそうは歌わないな」と思うところや、「こんな動きはしないな」と感じるところが随所に出てきます。
3. それが新しい学びです。
とは言え、「目の前の人になりきる、真似する」といってもちょっと難しいので、「なりきる、真似する練習」として次のことを順を追って試してみてください。
1. 頭の中だけである動作をイメージし、自分の体がその動作をしたときに感じるだろうものをリアルにイメージする練習です。
例1:
走ってきた子供が目の前で転ぶ一部始終をあなたが偶然にも見たとします。何かにつまずいて膝っ小僧を思いっきり打って擦りむいて砂まみれ、おまけに両手の手の平も擦りむいて血が出ています。この子供の膝と両手の痛みをあなた自身の体で感じてみてください。
きっとあなたも子供の頃こんな転び方をしたことがあるでしょう。だからあの痛みはわかりますね。
頭の中だけでその場面をイメージして、その痛みを自分の膝と手にリアルに感じます。
例2:
「弓先で四分音符を刻んで弾く」という動作を、頭の中だけでイメージしてみてください。
弓を持った自分の右手人差し指や親指にかかる圧力、右ひじや右肩や背中の筋肉や関節の感じを頭の中だけで想像することができるでしょうか。
「大きな音を弓元でダウンボウで弾く」という動作はどうでしょう。
考えただけで丹田に力が入って両足で体をしっかり支えていますか?
チェロ演奏に慣れてきた方なら少しはわかりますね。
ここまでができるようになったら、実際の公開レッスンでも試してみましょう。
2. 実際に舞台で演奏している奏者の動きを見て、その動きを自分の頭の中で逐一真似します。そして、その時の奏者が体の各部分に感じているだろう「圧力に耐えるしんどさ」「どんどん休み無く動くことによる疲れ」「体重の移動によるおしりや脚への圧力の変化」などを自分の体でリアルに感じます。ちょっとしたヴァーチャル・リアリティ・アトラクションみたいですね。
この2の「他人の動きや気持ちを逐一真似すること」は 1の「自分の頭の中に作った動作の感触を、体で感じること」より格段に難しいです。なぜなら、1のほうはひとつだけの動作に対してゆっくり時間をかけて体にイメージを作れますが、公開レッスンのときのような2の場合は目の前の演奏者がどんどん思いがけない動きをし続け、逐一それに自分が対応していかなければならないからです。
ですから「真似」といっても何もかも一度に真似する必要はありません。
自分がこの奏者から今回学びたいとおもうポイントを予め一つだけに絞っておき、実際に演奏を見聞きする時に、そのポイントだけを頭の中にある体で真似します。
今回は気持ちの動きだけ、今回は弓の使い方だけ、今回は体の使い方だけというふうに。
例1:
今回は演奏中の奏者の顔の表情だけ、視線だけ頭の中で真似してみます。(でもこれなら実際にやってみてもいいですね。)
ところで、それって、恥ずかしいと思ってあなたがいままでやったことのない表情ではないですか。あなたも実際の演奏中に同じ表情や視線をしてみると意外と気持ちがこもるかも。
例2:
今回は演奏者のボウイングだけ見て、あなたも頭の中で全く同じように腕や手指を動かします。そして、「もしその動きを自分の体がしたとしたら、自分の体のどこがどういうふうに感じるか」を自分の体でリアルに感じます。まるであなたが演奏者の体に乗り移ったみたいな感じです。
すると、
「わぁ、ここでこんなにたくさんの弓を使うの?右腕しんどいわ」とか
「えっ、ここでこんなに駒の近くに寄せるの?右指しんどいわ」とか
「アップとダウンが普通と反対だわ。でもやりやすいわ。」など、
いろいろ気づくことがあると思います。
3. 自分のいままでの演奏時の感触(リアル)とは全く別の感触(ヴァーチャル)を、体の中や体の各部に感じませんでしたか。
ヴァーチャル・リアリティ(VR)ゲームをして、実際に体も頭も「やった気になる」のと同じです。
この「いままで体験したことのない世界」が今回の学びです。
あなたの中に一つ引き出しが増えましたね。
・「模写」「臨書」を音楽でやるのですから、自分の音楽性云々ではなく、全身全霊で舞台上の奏者になりきってみましょう。
・素敵な演奏会を聴くときは「我を忘れて」いまここの音楽に浸りたいですが、公開レッスンは勉強会です。冷めた目と耳で演奏者を見て聴いてみてください。