弾き始めのガリッという汚い音を何とかしたいです【その4】
「弾き始めのガリッという汚い音を何とかしたいです」の4回目です。(一回目はこちら>>)
さて、今回挑戦するダウン弓で一つ目の音が出てくるまでの、タイミング(例:3拍子の場合)と手順(ダンスで言うところの振り付け)をざっくりたどると次のとおりです。
1. まず、弓を弦にポコンと乗せておく(まだ弦に圧力はかけない)。弓はそのまま、弾き始める一つ前の架空の小節から、これから弾きたい速さでカウントを始める。3拍子の場合なら:「いぃ・ち・と・お にぃ・い・と・お さん・ん」
2. このカウントの波に乗って、最後の「さん・ん・と・お」の「と」のタイミングで、弓を弾こうとする弦に沈める(その弦に適した深さまで)。
3. このカウントの波に乗って、「お」のタイミングで体重を移動し始め(まだ腕は動きません)
4. ついに腕が動くことで、楽譜の1小節目の大きい「い」のタイミングで弓が弦から引き剥がされ1つ目の音が出ます。
5. 弓が動き出したら(小さい「ぃ」のタイミングで)、弓の木の棒の部分のばねのチカラによって、弓が弦に加える圧力が斜め上方向に減り
6. 「ち」のタイミングでは、腕の重さを乗せたまま弓を引きずって
7. 結果、「すっきり立ち上がる音」がダウン弓で一つ弾ける
という流れ(ダンスで言うところの振り付け)になります。
では順番に詳しく見ていきましょう。
1. 弓を弦の上に乗せてカウントを始めます
ここで、これからご紹介する練習方法で使う「拍の数え方」をもう一度軽くおさらいします。もし、「い・ち・と・お」というカウント方法やこれに則った弓の動かし方についてもっとしっかりお知りになりたい方はこちらの記事>>で説明していますのでご覧ください。
<今回の練習に使う「いぃ・ち・と・お」というカウント方法>
これから弾きたい音一つ分の長さを、「いぃ」「ち」「と」「お」の4つに細分して数える方法です。
(注:以前ご紹介した「い・ち・と・お」の「い」を今回はさらに大きい 「い」と小さい 「ぃ」に2分割しています。でも、あまり細かいことに注意を払うとややこしくなりますので、「い」のタイミングで2つの動作を前後して行うんだと思ってください。)
このカウントに合わせて、ダンスの振り付けのように体を動かします。体の動きひとつひとつのタイミングを意識します。「頭」で考えながらやっているときはカクカクした動きになると思いますが、一度「体」が覚えると、流れるように自然に動けるようになってきます。
大切なことは、
実際に音を出す「1小節前の架空小節」から、弾きたい速さで「いちとお・にいとお・・・」とカウントし始め、この波に乗って実際に体を動かし始めたり、息をし始めたりするということです。
2. 楽譜の1小節前に想定した「架空の小節」からカウントしていった最後の「と」のタイミングで弓を弦の中に沈みこませます。
注) 以前、2018-11-08付けの紙上レッスン(こちら>>)では「と」で弓を止めて「お」で沈み込ませると、お伝えしました。この時は「体重移動」は考慮に入れずに右手の動きだけに絞ってご説明しました。今回は「右手の動き」に「体重移動」も加えた説明をしますので、「と」のタイミングで弓を弦に沈みこませて止めてください。この練習方法で四分音符の発音の練習をすると、楽譜に書かれている音と音の間に大きな隙間(休符)ができてしまいますが、今はそれでいいです。この「隙間」は後から簡単に小さくできます。
3. 「お」のタイミングで体重を移動し始めます(まだ腕は動きません)
「と」で弦の中に沈み込んだ弓の深さをそのままキープしたまま、「お」のタイミングで体重を「左足の裏・左お尻」から「右足の裏・右お尻」の方に向けて動かし始めます。
注1.)「動かし始める」というところがミソです。左脚の裏で床を押してじわ~っと体重を左から右に乗せ換えていきます。じわ~っと滑り台(こちら>>)が傾いていくと途中のどこかの時点で腕も動き始めます。体重を一気に右に乗せ換えておいてから、腕が動くのを待っているのではありません。
「お」のタイミングでは、弓が弦に張り付いているのを無理やり上半身が引き剥がそうとしているところです。右手指、特に小指と薬指に「ダウン方向に動きたいのに動けない」という「ねちっとした弓のひっかかり」を感じ、体重が移動していくにつれそれがどんどん増し、パワーがたまっていくように感じます。
注2.)滑り台のように体を傾ける練習(こちら>>)で「弓が勝手に動き出す」感覚に慣れてきた方は、次のようにステップアップしてみましょう。
先ほどの3.の写真のように、滑り台の傾きで弓を滑らせるようにイメージする(こちら>>)練習では、上半身が右に傾いて斜めになってしまいます。そこでこれを防ぐために、次は上半身を垂直に保ちながらも体重移動をしていきます。
今度は「スケート」しているところをイメージしてください。アイススケートでもローラースケートでもいいです。経験のある方ならちょっと思い出してみて下さい。
スケートで前へ進んでいきたいときは、右斜め前へ・左斜め前へ・右斜め前へ・・・と進みたい方向の足に体重を乗せ換えながら進んでいきますね。例えば、左脚で氷をじわ~っと押すようにして右脚に体重を乗せ換えます。
その時、上半身を次の足に乗せ換えてくときは、上半身は立てたままで「腰から」乗せていきます。チェロを弾く時の体重移動もこれと同じ感じです。次の足に上半身を乗せ換える時に肩を丸めて「頭から」突っ込んでいくと、胸が閉じ、肩の開きが悪くなり、弓を上から押さえつけ、音がつぶれます。
次の足に上半身を乗せ換えるときには、腰から動き、且つ踏み込みながら腰を高く上に伸ばすようにすると、乗り換えたときに胸が開き、肩甲骨が自然に寄り、腕の開きもよく、音に勢いが出て、チカラを入れなくても音が前に飛びます。
4. 大きい「い」のタイミングで弓が弦から引き剥がされ1つ目の音が出ます。
5. 弓が動き出したら(小さい「ぃ」のタイミングで)、弓の木の棒の部分のばねのチカラによって、弓が弦に加える圧力が斜め上方向に減り、弓がダウン方向に流れ始めます。(チカラの抜き方を詳しくお知りになりたい方はこちら>>もご参照ください)
ここで圧力を抜くの時に、弓の弾力に任せすぎて一度にすべて抜きすぎると音がかすれます。かといって、いつまでも腕の重みがかかり、弓の弾力を抑え込んでいると「ガリッ」といいます。
弓が動き始め、音の「アタマ」が付いたらすぐに弓の弾力を利用して、弦にかかる圧力を減らします。この時の圧力の残し具合とは、腕や体幹の重みをどこまで残すかです。これは上半身の位置や手首の柔らかさで加減できます。
ただし、圧力を減らすのに腕全体を肩から持ち上げてはいけません。これは一番「やってはいけないこと」です。手首の使い方についてはまた別の機会に。
6. 「ち」で弓が流れていきます。
ここでは音の「響き」を作っています。長い音の場合とくに、ここで弓のスピードや弦への圧力、左手のヴィブラートなどを上手にコントロールすると、「きれいな音」が作れます。
とここまで、言葉で説明すると、とってもややこしい「振り付け」ですが、これ自体はとても自然な動きですので、一度慣れれば楽な動きです。こういうのは、悔しいことですが、子供たちはすっと体で覚えるんですね。ホント、悔しいですけど。。。