弾き始めのガリッという汚い音を何とかしたいです【その3】

2020年9月27日

「弾き始めのガリッという汚い音を何とかしたいです」の3回目です。(一回目はこちら>>

ダウンの弓のスタート時に「ガリッ」というのを何とかするために、今回は「体重移動」という切り口を使ってみましょう。これができると弓が流れるように動き始めるので、スタート時の音がつぶれません。

ダウン弓を弾き始めるときに「ガリッ」という、よくある原因は以下のようなものです。

1. 弓をスタートさせた後、いつまでも同じ圧力で弦をこすってしまっている

2. 弓をスタートさせる時、下半身が使えておらず、肩から先の「腕だけで」弓を動かそうとしている 

今回はこのうちの 2.の場合によく効く練習方法をご紹介します。(1.の場合への対処法はこちら>>

さて皆さん、何十年も前、子供のころのテレビのクイズ番組で「ダイビングクイズ」っていうのを覚えていませんか。

大きな滑り台の上に回答者が座っていて、答えを間違うと、初めは平らだった滑り台の傾きが一段ずつ急になっていき、回答者は滑り落ちないようにそこにしがみつきながらクイズに答えていきます。滑り台の傾きに耐え切れずに、風船がたくさん敷き詰められているところに滑り落ちていったら負け、みたいなゲームでした。

あれはまだ白黒の画面でしたねぇ。あれを思い出しながら今回ご紹介する練習をお試しください。!?!?!

 

ダウン弓を「勝手に」スタートさせる練習

ダウン弓のスタート練習です。この練習のポイントは

弓が自ら勝手にスタートするのに任せる・腕と背中を脱力すると腕が動ける」

「腕が下半身の動きと連動して動く」

「チェロを弾く時のパワーが脚と体幹で生み出される

を体感していただくことです。


1. 弦の上に弓を乗せます。

どの弦でもいいです。初めての方は発音しやすく、腕の重みを弦に乗せやすい「D線」がよいでしょう。


2. 右腕の重み全部を自然に弦に預けます。弓に腕の重みがかかり、弓が弦に軽く食い込んだようになります。弦に乗せる重みは「腕」の分だけです。

ちょっと太め体形の男性などで、腕自身の重みがとっても重い方の場合、太めの弦(G線かC線)の上で練習した方がうまくいきます。普通体形の女性ならD線で結構です。右指の、弓と接する部分に腕の重みを感じてください。

注1.)腕の重さ以外に意識的にさらに圧力をかけるようなことはせず、腕の重みだけ乗せます。弓の動きをよく観察しようと前かがみになって駒付近をのぞき込むと、上半身の体重まで弦に乗ってしまい、「ガリガリ」「ギーギー」の原因になります。胸を柔らかく広げ、両肩先を後ろに引いて、肩甲骨を寄せるようし、体重はお尻の真上に乗せます。体を前に傾けず、腕だけを自分の前に出すようにするとうまくいきます。

注2.)小柄な方で腕の重みを指にあまり感じられない方は、もう少し手首だけを高くしてみてください。

この時気をつけることは:

1. 腕の重みを弦に預けたままで

2. 肘をぶら下げたままで

3. 腕の高さはそのままで(腕全体を持ち上げると弓にかかる圧力が減ります)

4. 弦に接する弓の毛の量が変わらないように(弓を持った指の形を変えずに手首だけを内側に折り曲げると弓全体を手前に巻き込むようになります。= 弦と接している弓の毛の量が増えます。手首だけをさらにきつく曲げると、ヴァイオリンを弾く時のような弓の倒れ方になります。これを防ぐには、手首を曲げると同時に指を垂直方向に少し伸ばします。こうすると、弓の、弦に当たる角度が変わりません)

手首が平らに近づくと、腕の重みが弓の上に乗りにくくなっていきます。「手首の角度や高さ」で弓にかける圧力をいろいろにコントロールできます。


3. 左脚に体重を移します。

腕の重みはそのままで、弓を弦に軽く食い込ませたまま、体重を左脚、左のお尻に乗せます。

右腕の付け根が肩甲骨のところにあると感じてください。ピーターパンのティンカーベルの羽根が生えているところです。本当は腕は肩関節で動くのですが、肩甲骨のところから動かす気持ちでいます。肩甲骨から腕の先までの全ての関節を柔らかく動けるようにしておきます。

体幹をしっかりさせ、腰の上に背骨の骨をひとつづつ真上に積んでいくような感じで背筋を自然に伸ばし、体重を背中のうしろ面に感じます。体幹の重みを楽器の上に乗せないようにします。

前から見るとこんな感じ

 


4. 腕はそのまま、弓を弦に食い込ませたまま、左足の裏全体で床をゆっくり蹴り出し、体の左側にあった自分の体重を少しずつ右足の裏、右のお尻に移していきます

最初、弓は摩擦で弦に張り付いています。腕の重みは弦に預けっぱなしにしています。その状態のままで、体が右に傾いていきます。

冒頭の「ダイビングクイズ」に例えると、弦が「滑り台」で、このだんだん増していく体の傾きが「滑り台の傾き」です。弦の上に乗っている弓が「クイズの回答者」です。

腕はいつでも動いていけるように、肩甲骨のところを緩めておきます。

どんどん滑り台の傾きを増していくと・・・


5. 摩擦で弓が弦に張り付いているチカラより、体の傾きで弓が滑りだそうとするチカラの方が大きくなったとたんに、弓が自ら勝手にダウン弓方向に動き出します。

「弓を動かす」という意識ではなく、「体重移動で弓が勝手に動く」という意識をもつことがこの練習のポイントです。

それまで弦に張り付いていた弓が、ある時点でポンと弦からはずれ、勝手に動きだします。

右腕は何もしません。さらに圧力を増加させるようなこともしません。弦の上にずっしり乗った腕が勝手に広がっていくのに任せます。

注: 右指の関節を緩め、弓と右指との接点を柔らかく敏感にしていると、弓が弦から外れる瞬間を右指の「弓と触れている皮膚」に感じることができます。弓が弦に「ねちっと」引っ付いている状態から、チカラの均衡が破れ、ある時突然弓が弦から外れます。この感覚は、これから皆さんが難しい曲を弾くようになった時にもっと重要になってきます。クリアな音で速く弾きたければ、演奏中にこの「弦にねちっと引っ付いた弓を引き剥がす」感覚を持つことは「must」です。

さて、どうでしょうか。

弓に積極的に圧力をかけ続けず、弓が弓先の方へただ流れていくだけですから、弓が進むにつれてだんだん音はかすれていきます。でもいまはこれでOKです。

 

冒頭にお話ししました:

「弓が自ら勝手にスタートするのに任せる・腕と背中を脱力すると腕が動ける」

「腕は下半身の動きと連動して動く」

「チェロを弾く時のパワーが脚と体幹で生み出される」

を体感していただけましたでしょうか。

 

ところで、

弓の動き始めでやっぱりまだ「ガリッ」といってしまうかたは:

弓の動きをよく見ようと前かがみになると、体重が弦にかかりすぎることがあります。この練習では腕の重みだけが弦にかかるようにしないと、圧力過多でガリガリ言ったり、いくら体を傾けても弓が弦に食い込んだまま動き出しません。前かがみにならないように、丹田・体幹・肩甲骨を意識し、体重をもう少し背中の方に移して、(椅子の背もたれの方に少し体を起こすように・・背もたれの方に体を反らすのはやり過ぎ)腕だけを前に伸ばすようにしてみてください。

次回は、前回の「弓にかける圧力を抜く」こちら>>と今回の「体重移動」とを組み合わせて、ダウン弓のスタート時の「ガリッ」とサヨナラしましょう。