左指で弦に圧力をかける【その3】チェロ・左手の押さえ方の極意は筋トレ!?

2020年8月15日

今回は、「左指で弦に圧力をかける」の第3回です。(1回目はこちら>>

前回、「斜め懸垂の時の、バーを握っている手に体を近づけていく動作がチェロの左手に応用できます」というお話をしました。こちら>>

ではどう応用するか?というのが今回のお話です。

ところで、チェロ演奏の際、左指で音程を作る動作というのは、左指先を指板まで、ほんの数ミリの距離だけ動かす動作です。その時、弦の「張力」がこの動きの「負荷」ということになります。(筋トレなら「ウエイト」ですね)

見方を変えると、左指先と胸の距離がほんの数ミリ近づくということです。(たった数ミリなんですねぇ。)たった数ミリなんですけど、これを「斜め懸垂をやるつもりでやってみましょう」というわけなんです。指板をトレーニング用のバーに見立てるわけです。

****

今回の左腕の動きを説明する為に「トレーニング用チューブ」を使った写真も使ってみました。

トレーニング用チューブはスポーツ用品屋さんで1本1,000円前後で買えます。美容と健康のため、そしてマイチェロのいい音作りのためにぜひ一本どうぞ。

1枚目の写真は、二つ折りにしたチューブの片端を 部屋のドアの上の隙間にはさんでドアを閉め、固定したところです。チューブを「ラップの芯」に通しておくとちょうどいい持ち手になります。これを指板だと思うと動きがわかりやすいと思います。

 

 ****

では、この「たった数ミリの動きの筋トレ(?)」はどうやればいいのでしょう。

「左指で弦に圧力をかける」の第1回(こちら>>)で少し触れましたが、この「指先と指板との距離を縮める動作」の方法で思いつくのが、

1. 指板を握るように指のチカラで弦を指板の方向に動かすことで、指先と指板との距離を縮める方法

2. 指先は弦に触れておき、腕を肘で折り曲げることで、指先と指板との距離を縮める方法

3. 斜め懸垂の要領で、指先と指板との距離を縮める方法

このうち初心者のかたが普通やる方法が上の 1. と 2. の方法です。ではこの3通りの方法についてみていきましょう。

1. :指板を握るように指を指板の方向に動かすことで、指先と指板との距離を縮める方法

この方法は体幹を全く使っていません。つまり、丹田も背中も胸も使っていません。

押している左指のチカラを受け止めているのは体幹ではなく、「左親指」です。ネックの裏からは「親指」で、指板の方からは「押さえている指」で、指板を握るようにチカラを入れています。

たいてい左手首にも肩もチカラが入り、肩が上がり、手首が落ちることが多いです。

私の教室の生徒さんで、昔バンドでギターを弾いていた方がこのタイプでした。それから、ヴァイオリンを弾く方が遊びでチェロを弾いてみると、たいていこの弾き方になります。

2.:腕を肘で強く折り曲げることで、指先と指板の距離を縮める方法

この方法も体幹が充分に使えていません。 この方法で弦を押さえていると肘を痛めます。

体幹が全く使えていないと、腕を曲げたときに胸がその圧力で後ろにさがります。=胸が閉じ、背中が丸くなります。

こうなると「のれんに腕押し」状態・「ぬかに釘」状態です。胸が「暖簾」や「糠」みたいになってしまい、左指先のチカラを受け止めることができません。

 

こちらも同じ「腕を強く曲げている」様子です。 

腕を曲げようとすればするほど(弦を強く押そうとすればするほど)胸がひっこんでいるのがわかります。「糠(ぬか)に釘」「のれんに腕押し」状態です。

チェロを弾いているときの姿勢が「猫背」の方によくあるタイプです。この姿勢の悪さは左手にも右手のボゥイングにも影響します。

頑張って圧力をかけているのにいい音が出ない、音の立ち上がりが悪い、雑音が多い時の原因の多くがこれです。

 3.:斜め懸垂の要領で指先と指板の距離を縮める方法

これは胸でしっかり楽器を裏から支えています。

指先と胸とで楽器を挟み込むような感じです。

上の2.と同じように肘は曲がって見えますが、こちらの方法なら肘に負担がかかりません。

また2. の写真と比べていただくと 3. の写真では胸が斜め上に持ち上がっているのがわかります。楽器を構えているときこの動作をすると、胸に斜めにもたれかかっている楽器が胸に押し出されて楽器がほんの少し立つようになります。

この時に注意していただきたいことが2つあります。

1つめは、

胸を壁に見立ててそこに向かって左指を近づけるというのではなく、どちらかというと斜め懸垂の時のように、持ち手(指板)を筋トレマシンの「バー」に見立てて、指板上の左指先に向かって「肩甲骨を寄せた、広げた胸」を近づけていくことで楽器を挟み込んでいくというイメージでやってみてください。

挟み込むチカラの配分は、指板上の「左指先の圧力」対「肩甲骨を寄せた、広げた胸の楽器を押し上げるチカラ」を 5対5、まずは「楽器を表裏両側から挟み込む感じ」から試してみてください。

注意していただきたいことの2つめは、

肩甲骨と胸にばかり気がとられていると、上半身がガチガチになってしまうということです。喉にまで力が入ってしまうのはダメですよ~。

肩甲骨が寄った背中も広がった胸も、とっても柔らかにしていてくださいね。

チカラを入れようとするときはいつもまず、丹田(おへその下)に力が入って、そのチカラで(使いかけのマヨネーズのチューブを下から押したときのように)自然に背筋が伸びていき、肩甲骨が寄っていき、胸が開いていく感じですね。(重い荷物をヨイコラショと持ち上げるときも、まず丹田にチカラを入れますよね。)

ところで、

「左手は指板にぶら下がるように押さえる」という言い方をどこかで聞かれたことがあるかもしれませんね。でも、ただ「ぶら下がっているだけ」では背中が丸まります。これでは猫背になり、2.の腕を折り曲げる方法も使わないと指と体との距離(弦と指板との距離)が縮まりません。

斜め懸垂でも「ただぶら下がってしまっているだけ」ではどうにもなりませんね。ぶら下がったあとは、丹田・肩甲骨・胸 の3点セットをお忘れなく。

最後にオマケ:

親指で弦を押さえるようなハイポジションが辛いときにも、この方法を使うとずいぶん楽になります。腕のチカラだけに頼らず、背中の大きな筋肉を使うことで、弦を指板につけられるからです。

指板上の指を壁にしてそこに向かって楽器を下から押し上げていってみてください。指板からの圧力5割、楽器を裏から押し上げる圧力5割ぐらいの感じからまず試してみてください。

次回は、弦を押さえている左手(手首から先)についてお話しします